"持続する強い痛み"を生み出す原因物質Tmem45bを世界で初めて発見!~画期的な痛み治療へ~

発表日時 篮球比分直播4年11月15日(火)15:00~15:40
場所 オンライン
発表者

麻酔科学講座 教授 川股知之、助教 谷奥匡

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ポイント

  • リウマチ?手術?外傷およびがんなどの侵害受容性疼痛では、動いただけで痛い、触っただけで痛いなどの持続する強い痛みが出現する。
  • 現在、持続する強い痛みに対して、主にモルヒネなどの医療用麻薬が使用されている。しかし、医療用麻薬は脳内の痛み伝達に関係のない領域にも作用し、呼吸抑制?眠気?嘔気?依存などの副作用が大きな問題となっている。
  • 本研究では、持続する強い痛みの原因物質Tmem45bを世界で初めて発見した。
  • Tmem45bは、脳内にほとんど存在しないため、Tmem45bをターゲットとした痛み治療は、医療用麻薬に取って代わるGame Changerとなる可能性を秘めている。

1.背景

 リウマチ?手術?外傷およびがんなどの侵害受容性疼痛では、動いただけで痛い、触っただけで痛いなど軽微な刺激で通常感じたことのない持続する強い痛みが出現し、患者さんを苦しめます。この痛みは、解熱鎮痛薬など一般的な薬で抑えることが難しく、モルヒネなどの医療用麻薬が用いられますが、それでも十分な鎮痛を得られないことがある難治性の痛みです。また、医療用麻薬は、脳のあらゆる部位に作用し、鎮痛のみならず、呼吸抑制、嘔気、眠気、さらには依存などの精神症状を引き起こします。米国では、鎮痛処方された医療用麻薬の濫用とそれによる死亡者数の増加が国家的な問題となっております。しかしながら、現在のところは、解熱鎮痛薬など一般的な薬と医療用麻薬に頼らざるを得ません。その理由として、持続する強い痛みの原因が明らかになっていないことが挙げられます。

2.研究成果

 今回の研究で私たちは、マウスを用いて、軽微な刺激で持続する強い痛みを伝える神経線維を同定しました。さらに、「同定した神経線維には異常な痛みを伝える重要な物質が存在している」との仮説を立て、持続する強い痛みを伝える神経線維と伝えない神経線維に発現している物質を比較しました。その結果、持続する強い痛みを伝える神経線維に特異的に発現している物質Tmem45bを発見しました。次に、Tmem45bを生まれつき持っていないマウスを作成しました。Tmem45bを有する正常マウスでは、炎症や創傷があると、軽微な刺激で強い痛みを感じる、通常痛みと感じない刺激で強い痛みを感じるといった持続する強い痛みが出現しました。一方で、Tmem45bを生まれつき持っていないマウスでは、炎症や創傷がある状態でも持続する強い痛みが出現しないことが明らかとなりました。すなわち、私たちが発見したTmem45bは炎症や創傷に伴って活性化し、軽微な刺激で持続する強い痛みを作り出す物質であることが世界で初めて明らかになりました。
 面白いことにTmem45bは脳にはほとんど発現せず、一部の末梢神経に特異的に発現していました。したがって、Tmem45bをターゲットとした痛み治療は医療用麻薬で問題となる呼吸抑制、嘔気、眠気、さらには依存などの精神症状を起こさずに鎮痛できることが推測されます。

Tmem45bについて

3.今後の展開

 軽微な刺激で持続する強い痛みの原因物質Tmem45bが明らかになりました。Tmem45bをターゲットとすることで、副作用の少ない優れた鎮痛効果が期待されます。Tmem45bをターゲットとした鎮痛法はこれまでの鎮痛方法と比べて全く新しいものであり。医療用麻薬の問題を解消して、患者さんの生活の質を上げるGame Changerとなる可能性があります。

4.用語説明

  • Tmem45b:transmembrane protein 45b。7回膜貫通型タンパク質。これまでに機能は明らかにされていなかった。
  • 侵害受容性疼痛:末梢神経終末に存在する痛み受容体が活性化され生じる痛み。痛み受容体を活性化する刺激として、組織の損傷(傷?がん?骨折など)、炎症、つねる?刺すなどの侵害刺激がある。

5.発表雑誌

Tadashi Tanioku, Masayuki Nishibata, Yasuyuki Tokinaga, Kohtaro Konno, Masahiko Watanabe, Hiroaki Hemmi, Yuri Fukuda-Ohta, Tsuneyasu Kaisho, Hidemasa Furue, Tomoyuki Kawamata.
Tmem45b is essential for inflammation- and tissue injury-induced mechanical pain hypersensitivity
Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America (米国東部時間 2022 年 11 月 2 日付の電子版に掲載)
DOI number: 10.1073/pnas.212198911
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2121989119

6.本論文著者

和歌山県立医科大学 医学部 麻酔科学講座
 谷奥匡助教、西畑雅由学内助教、時永泰行講師、川股知之教授
和歌山県立医科大学 医学部 先端医学研究所 生体調節機構研究部
 大田(福田)有里特別研究員、邊見弘明准教授(現 岡山理科大学教授)、改正恒康教授
北海道大学 大学院 医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室
 今野幸太郎助教、渡辺雅彦教授
兵庫医科大学 生理学 神経生理部門
 古江秀昌教授

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