Nrf2が早期心筋梗塞の法医診断に有用であることを解明

Nrf2が早期心筋梗塞の法医診断に有用であることを解明

発表日時 篮球比分直播6年3月28日(木) 10時30分~11時00分
場所 生涯研修センター研修室
発表者

本学医学部 法医学講座 教授 近藤 稔和
           准教授 石田 裕子
医学部 4年生(MD-PhDコース医学部生) 冷水 詩音

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ポイント
  • 心筋梗塞とは心臓に血液を送る冠動脈という血管が詰まって血液が流れなくなり心臓を動かす心筋の細胞が死んでしまう(壊死する)病気です。
  • 早期に発症した心筋梗塞は、法医解剖時にみられる肉眼的な特徴および、顕微鏡下で認められる特徴に乏しく、その法医診断が困難なことが課題とされてきました。
  • Nrf2は、心筋細胞の虚血時に働く分子の一つですが、これまでNrf2の心筋梗塞の死後診断への応用は検討されていませんでした。
  • 心筋梗塞が死因と判断された事例で、心筋におけるNrf2の陽性細胞が多数観察され、Nrf2が早期心筋梗塞の法医診断に有用であることが明らかになりました。
1.背景

心筋梗塞を含む心疾患は日本の死因の第2位です。特に、急性心筋梗塞は年間約15万人が発症し約30%が死亡しているといわれています。心筋梗塞は心臓に血液を送る冠動脈という血管が詰まって血液が流れなくなり心臓を動かす心筋の細胞が壊死する病気です。類似した病気の「狭心症」と合わせて虚血性心疾患と呼ばれます。「虚血」とは、臓器への血液供給が減少し酸素や栄養が不足した状態のことです。突然死の原因として心筋梗塞の死後診断は非常に重要ですが、発症早期の心筋梗塞は、法医解剖時にみられる肉眼的な特徴および、顕微鏡下で認められる特徴に乏しく、その法医診断が困難なことが課題とされてきました。これらの問題に対し、心筋細胞が虚血に陥った際に生成されるタンパク質を免疫組織化学的に解析し、心筋梗塞であるか否かを検討する方法が模索されてきました。Nrf2は、心筋細胞の虚血時に働く分子の一つですが、これまでNrf2の心筋梗塞の死後診断への応用は検討されていませんでした。本研究では、法医剖検試料における心筋細胞内Nrf2タンパク質の発現を解析し、その結果を既存の診断指標として用いられているfibronectin(FN)やC5b-9の発現と比較することで、急性心筋梗塞の法医診断の指標となり得ることを解明しました。

2.研究成果

今回の研究では、死後経過時間が72時間未満の法医剖検例64例(男性42例,女性22例)の心臓組織試料について検討しました。法医剖検例は死因により、心筋梗塞群(25例)ならびに、その他の死因群(対照群:39例)の2群に分類しました。この2群間において、Nrf2タンパク質の発現所見に違いが認められるかについて検討しました。Nrf2のタンパク質発現は、心筋梗塞群では心筋細胞の核内で検出されました(図1)。また、心筋梗塞群と対照群の比較では、Nrf2陽性細胞数に有意差が認められました(図2)。これらの結果からNrf2はこれまでに使われてきた心筋梗塞の指標(FNやC5b-9)と比較しても絶対的評価が可能な点で客観性が高いことが示され、Nrf2発現が発症早期の心筋梗塞の法医診断に有用であるという新たな知見を得ました。

図1と図2

3.今後の展開

今回の研究で、Nrf2の発現が発症早期の心筋梗塞の心筋細胞で有意に亢進し、死後診断の指標の1つとして有用であることが判明した。したがって、これまでに使用されてきた診断指標(FNやC5b-9)と組み合わせて用いることにより、より客観的かつ正確に心筋梗塞の診断をすることが可能となり、法医診断が困難とされていた発症早期の心筋梗塞の診断精度が向上する。

4.用語説明

心筋梗塞:心臓に血液を送る冠動脈という血管が詰まることによって、心臓の筋肉に栄養や酸素が届かなくなり、心筋細胞が死んでしまう病気。
壊死:生物の身体を構成する組織の一部が死滅して機能しなくなること。血液が供給されなくなった部分や火傷をした部分などに生じる。
虚血:血管が血液を送っている組織や細胞に血液が十分に供給されない状態。虚血により細胞や栄養不足や酸素不足に陥る。
Nrf2:心筋細胞に存在する酵素の一つ。心筋細胞が虚血に陥った際に作られるタンパク質の生成量を調節する因子(転写因子)である。

5.発表雑誌

“Forensic significance of intracardiac expressions of Nrf2 in acute myocardial ischemia’ International Journal of Molecular Sciences.”

Shion Hiyamizu, Yuko Ishida, Haruki Yasuda, Yumi Kuninaka, Mizuho Nosaka, Akiko Ishigami, Emi Shimada, Akihiko Kimura, Hiroki Yamamoto, Miyu Osako, Wei Zhang, Utako Goto, Ten Kamata & Toshikazu Kondo

Scientific Reports volume 14, Article number: 4046 (2024)

https://www.nature.com/articles/s41598-024-54530-x

6.本論文著者

和歌山県立医科大学 医学部 法医学講座
冷水詩音、石田裕子准教授、安田啓喜、國中由美特別研究員、野坂みずほ講師、石上安希子講師、島田栄美研究補助員、木村章彦博士研究員、山本寛記助教、大迫美優大学院生、Wei Zhang大学院生、後藤詩子、鎌田哲帆、近藤稔和教授

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